原作を輝かせ、作品を支える韓日翻訳者として、
数々の作品を手がけている朴澤蓉子さん。
映像翻訳の魅力や難しさとともに、
仕事を通して得ることのできた最高の栄誉について伺いました。
――なぜ、韓国語に興味を持ち、翻訳者を目指すことにしたのでしょうか。
もともと映画を観ることが好きで、字幕を付ける翻訳者に憧れていました。韓国語に興味を持ったのは、知人に在日コリアンの方がいて、隣国でもある韓国についてもっと知りたいと思ったことがきっかけです。韓国語を専攻した大学入学の頃に“冬ソナ”がヒットして韓流ブームが到来。学んでいる韓国語を活かして、憧れていた翻訳の仕事に関わってみたいと、大学在学中に字幕翻訳のアルバイトをはじめました。最初は誤字脱字をチェックする校正を担当し、そこからバラエティ番組やドラマの字幕も担当させてもらえるように。自分の訳した番組が多くの方に見てもらえると思うと、ますます翻訳に関わることが楽しくなって。就活では一応、一般企業を受けてみたものの、「そんなにやりたいことがあるならそれを極めてみれば」と逆に言われる始末(笑) 結果、アルバイトをしていた翻訳会社に就職をし、映像翻訳者としての道を歩きはじめました。
――これまでに手掛けた作品の中で、とくに印象に残っている作品を教えてください。
2015年に翻訳した『チャンス商会』です。登場人物のおじいさんが亡き祖父と重なり、涙しながら訳しました。映画全体が温かく優しい空気に包まれていて、この温もりをしっかり伝えたいと思いながら取り組んだことを覚えています。劇場で観た両親もとても喜んでくれました。両親は手がけた作品をほぼすべて観てくれていて、私のクレジットが映っているテレビ画面を撮ってLINEで送ってくれるなど、ちょっとした親孝行にもなっています。
――翻訳するにあたって、どんなことを意識していますか?
ドラマや映画の場合、視聴者に映像を楽しんでもらうことが大前提。そのため、画面をパッと見て何を話しているかが分かるように、わかりやすくコンパクトにまとめる必要があります。「1秒4文字」。これが字幕のルールです。セリフを直訳するのではなく、セリフの背景にある意味や思いを理解し、「1秒4文字」の日本語に凝縮させる。しかしその過程で翻訳者の勝手な解釈が加わってしまったり、意訳しすぎたりしないよう、常に客観性を持って原文に向き合うよう心がけています。青春モノなら少しくだけた表現を使ったり、時代劇なら漢字だらけで読みにくくならないように工夫したりと、作品のテイストに合わせて訳し方も変えています。
また、最近は韓国語の分かる視聴者が以前よりぐんと増えたので、そういった方々が違和感を持たないような訳にすることも必要だと感じています。敬体で話している原語をタメグチに訳すことは以前より慎重になりましたし、「オッパ」「ヒョン」(年上男性の意)や「オンニ」「ヌナ」(年上女性の意)も、「○○さん」や「先輩」と訳すことに限界を感じ始めていて…。とにかく時代に敏感に、試行錯誤を続けていかないといけないなと思います。
――映像翻訳者としての責任や役目を感じながら仕事をされていることがよく分かります。
ドラマにしろ、映画にしろ、作品は脚本家、俳優、監督、カメラマンなど、多くの人が携わり、それぞれの人生をかけて完成されたもの。それこそ、構想から10年かかったという作品もあるでしょう。そういったたくさんの作り手の熱い思いを、楽しみに待っている視聴者やファンに届ける。そんな重大な任務を担っているのが翻訳者です。その意識を忘れてはいけないと常に言い聞かせています。
――実際に脚本家など制作サイドと会う機会がない中で、どのように情報収集しているのでしょうか。
メイキング映像やインタビュー記事には必ず目を通しています。とくに、最近の韓国作品は、フェミニズムやジェンダー問題をはじめ、社会問題を示唆するような内容が盛り込まれているものがとても多いんです。作り手の「映画やドラマには世の中を変える力がある」という強い信念が感じられます。その信念を翻訳で台なしにするようなことがあってはいけません。例えば、「恋愛しなよ」を、直訳すると違和感があるからと安易に「彼氏(彼女)つくりなよ」と訳してしまったり…。そういった不誠実な翻訳を無意識にしてしまわないように気をつけ、できる限り下調べをして、制作側の意図や作品に込めたメッセージをキャッチするようにしています。
――2020年に文芸書の翻訳コンクールに応募されました。そこにはどんな理由が?
字数制限に苦しむことなく、とことん原文と向き合って翻訳してみたいと思ったんです。というのも、映画『詩人の恋』(2020年日本公開)を訳したときにとても苦労して。劇中に出てくる詩をそのまま訳しては分かりづらく、映像を楽しむゆとりがなくなってしまう。でも、分かりやすく意訳することで詩の奥行きを狭めてしまうのではないか、どこまで観客の解釈に委ねていいのか…。ちょうど育児で仕事の時間が以前のようには確保できずに悩んでいた時期とも重なり、落ち込んでしまいました。
――スランプに陥ったということでしょうか。
そうですね。仕事に追われてなかなかインプットの時間が取れず、経験値という貯金を切り崩しながら翻訳している自分に焦りも感じていました。今さらではあるものの、翻訳の基本に立ち戻る必要性を自分なりに感じたんです。そこで、1カ月半、仕事のオファーはすべて断り、文芸書の翻訳に初挑戦することに。これが想像以上に大変で。原文から映像を思い浮かべ、それが的確に伝わる日本語にする。その難しさに愕然としつつ必死に訳し続けました。
――結果、最優秀賞を受賞。素晴らしいことです。
ありがとうございます。正直言うと、自分で自分のことを褒めるのが昔から苦手で。もしコンクールで賞を取れたら、自分を褒めてやれるんじゃないかと思ったんです。でもまったくそうではなく。むしろ自分に足りない部分や新たな課題が見えてきて、まだまだ頑張らないといけないと思いました。ある意味、ふっきれたというか、苦しむ覚悟ができたというか。映像翻訳の魅力も客観視できるようになり、受賞そのものが「もっと頑張りなさい!」というエールに感じられて。あらためて前を向ける、よいリセットになりました。
――10年以上も活躍を続けている朴澤さんが自身に「プラチナ・メダル」にちなんだ最上級の栄誉を贈るとしたらどんなことでしょう。
自分を褒めるのが苦手なのですが、唯一褒められることは、「続けてきたこと」かなと思います。翻訳作業は、下調べをして、作品をひととおり見て、言葉を選んでいく、なかなか孤独で地味な作業です。しかも、限られた時間の中で、同時に何本もこなさなくてはならない。正直、逃げたくなるときもあります。でも、逃げずに挑み続けて今がある。途中で投げ出さず、目の前の課題に向き合い、ここまで翻訳者として続けて来た自分を素直に褒めたいと思います。
――ご自分へのご褒美にプラチナのジュエリーを身に付けて出かけるとしたらどんなところがご希望ですか?
夫と3歳になる娘と一緒に、美味しいステーキを食べに出掛けたいです。家族と過ごす時間が今の私にはとても貴重で、最高のリフレッシュ。プラチナのジュエリーを付けていたら、より優雅な気分に浸れること間違いなしです。
――最後に、今後の目標をぜひ教えてください。
作品のよさをしっかり届けられるよう、奢らず地道に努力し、翻訳者として力をつけていきたいです。また、講師を務める語学学校で、映像翻訳者の育成にも力を入れていきたいと思っています。
1985年生まれ。宮城県出身。
東京外国語大学在学中よりアルバイトで韓日映像翻訳に携わり、
2010年からはフリーランスとして活動。
映画『ミッドナイト・ランナー』『最も普通の恋愛』
『詩人の恋』の字幕翻訳やドラマの吹き替え翻訳など、
手がけた作品は100タイトル以上。
2020年、「第4回日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」で
最優秀賞を受賞。同受賞作『ハナコはいない』をクオン社より刊行。
着用ジュエリー ピアス GINZA TANAKA ネックレス Hello Me, Platinum
※2022年2月取材
プラチナ・ジュエリーの国際的広報機関プラチナ・ギルド・インターナショナルが、貴金属の最高峰であるプラチナを500 グラム以上も使用して製作した特別な宝飾メダルです。
素材 | Pt999(純プラチナ) |
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総重量 | 565.84グラム (留金具2個含む、リボン別) |
サイズ | 直径 880 ミリ、厚さ 6 ミリ |
参考価格 | 約 1000 万円(非売品) |
素材: Pt999(純プラチナ)
総重量: 565.84グラム (留金具2個含む、リボン別)
サイズ: 直径 880ミリ、厚さ 6ミリ
参考価格:約1000 万円(非売品)