
それぞれの分野で道を切り拓き、
次の時代を見つめる人たちがいます。
時を超えて輝き続けるプラチナ・ジュエリーのように、
しなやかに、
そして芯を持って未来を描くその手には、
どんな光が宿っているのでしょうか——。
プラチナ・ギルド・インターナショナルは、
今年設立50周年を迎えました。
次の時代に向けて——
未来を創る方々の言葉から、その光を探ります。
2024年3月に、12人抜きで女性初の抜擢真打となり、
意欲的な活動が注目される
落語家の林家つる子さんに
お話を聞きました。

―― つる子さんの現在の活動について教えていただけると嬉しいです。
2024年3月に真打に昇進させていただき、日々、高座に上がっています。なかでも力を入れているのが古典落語に出てくる⼥性の登場⼈物を主⼈公にして噺の裏側を描く挑戦です。
―― 女性の視点で描いた落語が話題になっていますね。そういった噺に挑戦するようになったきっかけはなんだったのでしょうか?
女性の登場人物に注目しようと思ったわけではなく、落語に描かれていない“裏側”が気になったことがきっかけでした。最初に挑戦しようと思った演目は、「芝浜」と「子別れ」という夫婦の話でした。おかみさんは描かれていない場⾯で何をしていたのだろう、どんな思いでそんな行動に出たのだろう…と、描かれていない裏側への想像をふくらませるなかで「おかみさんを主人公にしたら、見えなかった景色が描けるのでは」と思い至ったんです。
―― 最近では吉原の女性たちを描く作品にも挑戦されていますね。
吉原を舞台にした落語は多くありますが、主役はたいてい男性で、遊女は噺の中に1人か2人登場するくらいです。けれど、実際はいろいろな遊⼥たちがいたはず。吉原について調べていくうちに縛られた世界である一方で、そのなかには遊女たちの暮らしや楽しみがあったことにも気づけたんですよね。
最近では「紺屋高尾」に登場する花魁・高尾太夫を主人公にして噺を新たに描くことに挑戦しました。「紺屋高尾」は、職人の久蔵が⾼尾花魁に恋をして、その想いが実る──という人気演目ですが、原作では高尾の心情は多く語られません。数々の殿方を見てきたトップクラスの花魁が、なぜ久蔵の想いを受け入れたのか。落語には描かれない気持ちの変化にドラマがあると感じたんです。
資料や当時の記録、文献、作品などを丁寧に読み解きながら、現代にも通じる感情やテーマをすくい上げて表現しています。そうやって古典落語に向き合い、挑み続けることこそが古典落語の本質を守りながら、新しい命を吹き込む行為になるのではないかと信じて、日々取り組んでいます。

―― もともと演劇をやられていて、大学で落語に出会ったところから落語の道に進まれたということですが、今もなお夢中になり続けている理由はどんなところにあるのでしょうか?
最初のきっかけは、大学の落語研究会で聞いた先輩たちの高座でした。純粋に面白かったというのが一番の理由ですが、同世代の若者が、江戸・明治・大正といった時代に生まれた噺を語り、それを私たちが聞いて笑ったり、心を動かされたりする。そのこと自体に、とてもロマンを感じたんですよね。落語の舞台になった時代のような身分制度はもうないけれど、理不尽なことはたくさんあるし、悩みもたくさんあります。時代は違っても人の感情には共感できる。その普遍性に心を掴まれ、衝撃を受けたんです。そんなところから落語に出会い、より深く知っていくなかで、落語に救われることもたくさんありました。だから、ずっと夢中になり続けているのだと思います。

―― 落語に助けられたエピソードを教えていただいてもよいでしょうか。
父が亡くなってすぐの頃、ショックから⽴ち直れず「とても⾼座に上がる気分じゃない」と思っていたのですが、それでも高座に上がり、滑稽噺を演じると、終わったあとに不思議と元気が出ていたんです。他のことに没頭できたというのもありますが、どこか抜けていて、でも憎めない登場人物たちの能天気な姿に、「大丈夫だよ」と言われているような気がしたんです。
落語では失敗ばかりの登場人物や弱い立場に陥っている人々が描かれることが多いのですが、だからこそ共感できることも多いのかもしれない。つまずいたり、迷ったりしているのは自分だけじゃないんだって救われる。
あと、落語の良いところは、1人で見ていても当時の江⼾っ⼦たちと一緒に笑っているような感覚になれることだと思います。大勢でワイワイしたいわけじゃないけど、1人になりたくない気分の時にぴったりなんですよね。落語はさまざまな気持ちに寄り添ってくれる存在だということを演じるなかでも日々実感しています。
―― 歴史のある文化を変わらずに守りながらも、柔軟に変えていく挑戦もしているつる子さんですが、師匠⽅からの影響はあるのでしょうか?
師匠方のなかにも古典落語に真正面から向き合われている方もいらっしゃいますし、新作落語に専念する方もおります。本当にさまざまなタイプの師匠がいるからこそ、多様な道があっていいんだと思えています。
私の師匠(九代 林家正蔵)は、女性の落語家に対してすごく柔軟な考えを持っている方で、入門当時から「女性にしかできない落語があるはずだから、やりたいと思ったことはどんどん挑戦してみなさい」と仰ってくださっていました。それまでは、「女性だから」と言われないように努力しようという意識ばかりでしたが、師匠のお⾔葉で、肩の力が抜けたというか、「⼥性だからこそできること、新しい道を切り開くための努⼒をしてもいいんだ」と思えるようになりました。
だからこそ、「芝浜」「子別れ」の裏側にあるおかみさんの噺にも目を向けられたんだと思います。師匠のお言葉が背中を押してくださいました。

―― 落語などのエンターテインメントもジュエリーも、心を満たし、前を向かせてくれるような特別な存在だと思います。落語がもたらす豊かさはどんなところだと思いますか?
私たち落語家が届けられるのは、直接のモノではなく“感情”です。感動や楽しさ、明るい気持ちを持ち帰っていただけるよう、常に意識しています。
これはコロナ禍にとくに思ったことでもあります。当時、落語などのエンターテイメントは不要不急だとされ、落語の象徴でもある寄席が、戦後初めて、3ヶ月にもわたって閉鎖されたんです。ですが、あの状況だからこそ、笑いや楽しみが必要だったと私は思うんです。それがきっかけとなりSNSなどで発信を始めました。誰とも会えないし、いろんなことができなくなって不安なときだからこそ、落語がもたらす共感が安心につながったらいいなということを考えていました。
―― 今日は、お着物にプラチナ・ジュエリーを合わせていただきました。合わせてみていかがですか?
爽やかな着物にプラチナのジュエリーが加わると、さらに華やかになりますね。普段も着物にジュエリーを合わせることはあるのですが、着物の美しさが映えるよう、耳元のイヤリングなどさりげなく着けることが多いです。
プライベートで洋服を着る時は、プラチナのネックレスを着けることもあります!幼い頃からキラキラしたものが大好きで、ジュエリーを着けると気分が上がるんです。 自分を彩ってくれるものを身に着けていると、自信にもつながりますよね。
高座に上がるときは、その落語が作られた時代に存在しないものはなるべく着けないようにと教わりますが、現代が舞台ならジュエリーもありだと思っています。今日、実際に着けてみると「ジュエリーを買いに行ってきた」というエピソードや、「誰にもらったの?」なんてやりとりからも落語ができそうだなとイメージがふくらみました。これも女性落語家だからこそ生まれる落語かもしれませんね…!

「ネックレスを羽織紐として代用することもあるんですよ。
自分らしさを出すときにさりげなくジュエリーを取り入れる着こなしが好きです」

―― 落語には江戸の人たちの生き方が描かれていますが、今の私たちのヒントになるようなエピソードはありますか?
現実ではなかなか起こり得ないような侍やお殿様など偉い人に対して、町民たちが大どんでん返しを起こす噺や、それを笑い⾶ばすような噺が落語にはたくさんあります。きっと昔の人たちは、それを見て共感したり、笑いあったりして、ストレス発散をしていたのだと思います。
落語を聞いて実際に行動を移すということには至らなくても、「昔からこうだったんだ」と共感したり、理不尽な状況は笑い飛ばしちゃえばいいんだと思ってもらえる噺はたくさんあるはずです。
また、落語には“どうしようもない人”がよく登場します。落語の世界では、そういう人たちを決して見捨てないんです。与太郎という人物は、往々にしてどうしようもない役どころなんですが、ちゃんと役割を果たしていて、ときにヒーローになることもある。そんな落語が、身近な人への接し方や、⼈と⼈との付き合い方が変わるヒントになるかもしれない。自分で創作するときも、自分の感情を込めて、誰かの共感につながる噺を意識しています。


「お蕎麦を食べるシーンはまだまだ出来ますよ!」と、
所作も美しい手の演技と笑顔が光る
―― プラチナ・ギルド・インターナショナルは今年50周年、落語協会も昨年100周年を迎えました。長く続いていくものに携わる立場としての今後の展望を教えてください。
昨年、真打ちに昇進させていただいて、「師匠」と呼ばれる立場になったことで二つ目時代とはまた違う責任感が芽生えてきました。お客様に満足いただける高座をお届けすること、そして落語という文化を未来に繋げていくこと。その両方を大切にしたいと思っています。
落語は、その時代に生きた人たちの暮らしや感情が題材になっているからこそ、伝統芸能のなかでも比較的柔軟性があり、現代の私たちも共感しやすい文化だと思います。とはいえ、言葉や背景がわかりづらくなってきている部分もあるため、古典の世界観を守りながら、今の時代に寄り添う工夫は欠かせません。時代とともに柔軟に寄り添ってきた落語であれば、それができるはずなので。
女性落語家だからできることでいうと、今を生きる女性たちにも共感できる落語を届けること、噺の裏側を⼥性の登場⼈物の視点から描く挑戦は、これからも続けていきたいですね。私自身も、落語とともにしなやかに成長しながら、時代に寄り添い、変化を恐れず柔軟に取り組み続けていきたいと考えています。

1987年生まれ、群馬県高崎市出身。古典落語の滑稽噺から人情噺、現代を舞台にした自作の新作落語にも取り組んでいる。一方で、古典落語の名作「子別れ」「芝浜」「紺屋高尾」などの登場人物である女性たちを主人公にして、その視点から落語を描く挑戦を行っており、その挑戦が多数のメディアで取り上げられ大きな話題となった。2024年3月に、12人抜き女性初の抜擢真打昇進を果たす。

着用ジュエリー / イヤリング BELLE BLANCHE イヤーカフ PLATINUM WOMEN アイコンモデル パールリング PLATINUM WOMEN (Ponte Vecchio) ブレスレット&リング IJIMA
※2025年7月取材